適投

テキトーな備忘録

コガネムシに誤って殺虫剤を吹きかけた話

一昨日の夜、折りたたみ自転車の変速機の調整を終え、試運転するために自転車を抱え玄関を出たところ、マンションの共用廊下の床に十円玉サイズの虫が這っているのを発見。

この時間に床を這いずり回っている虫などアイツしかいないと思い、後々ドアの隙間から侵入されても困るので、自転車をその場に起き、急いでアースジェットを手に廊下に戻った。

昨年買ったアースジェットを手に再び玄関のドアを開けると右足元にいた。アイツだ! すかさず標的から1メートルほどの距離にアースジェットを構え「シューー」とひと吹き。

それにしても最近の殺虫剤はよく飛ぶ。標的から1メートルほどの距離から噴射しても霧が広がる範囲はせいぜい直径30センチ程に収まる。まさに狙撃だ。

そうして、殺虫剤の噴霧を食らったソイツは途端に藻掻き苦しみだした。ワタシはGがこの世で一番嫌い。

ざまぁ見やがれと思った瞬間だった。何かがおかしい事に気づく。違う…コイツはGじゃない。

明らかにGよりも体に厚みがあり、そして動きも鈍い。G特有のあの俊敏な動きを見せない。視力0.7の眼を凝らし、よく見ようとそいつに恐る恐る近づく。間違いない。こいつはGじゃない。コガネムシだ!

これは大変なことをしてしまった。コガネムシといえば、一昨年の夏も夜道を歩いているときにTシャツにくっ付いて来たことがあった。そのときは近所の公園の木に返してやった。

ワタシはGが大嫌いだが他の昆虫は嫌いではない。むしろ好きなくらいだ。小学校低学年の頃など、夏になるとカブトムシやクワガタ捕りに明け暮れる昆虫少年だった。ワタシは東京出身だが、東京にも樹液が出る木はあり、そういう木にはカブトムシやクワガタが集まってくるのだ。

夏休みはそういった、いくつかの採集ポイントを早朝の4時から虫トモと回るのが日課だった。当然ながらコガネムシやカナブンなども馴染みの虫である。

しかし、最近の殺虫剤は効き目も強力だ。アースジェットをまとも食らったコガネムシは裏返ったまま脚をバタつかせ苦しんでいる。これはもう手遅れだろう…。ワタシは自転車を抱え逃げるようにその場を去った。

帰ってきたら恐らく息絶えていることだろう。そうしたら、近所の公園の植え込みにでも埋葬してやろう。そう考えながら自転車を漕いだ。ギアチェンジがスムーズにできるかをチェックするだけで済ませるつもりが、小1時間も自転車を漕いでいた。帰ったときにはコガネムシが確実に息絶えていてほしかった。ついには小雨が降りだした、そろそろ帰るか。もうコガネムシも完全に動きが止まっている頃だろう。そうしたら土に葬ってやろう。家路についた。

どうせ公園までコガネムシの死骸を持って行くことになるので、自転車はマンションの入り口に鍵もかけず置いたまま。玄関の5メートルほど手前に差し掛かり床にある小さな点が視界に入る。さらに近づくと…最悪の事態に気づく。何とコガネムシは仰向けになって脚をバタつかせてまだ苦しんでいるではないか!

何のための1時間だったのか。しかし、もうこうなったら蘇生を試みるしかない。急いでコガネムシを拾い部屋へ駆け込む。とりあえず体に付着した殺虫剤を落とそう。そこで、ボールに台所用洗剤をドボドボ入れ水をジャバジャバ流し、その中にコガネムシを投入。

コガネムシは水流の中でクルクル回る。もう四の五の言っていられない。息継ぎのため数十秒置きに洗剤水から出し、また浸けることを繰り返す。水をジャバジャバ流していると洗剤も薄まるので定期的に投入する。

その後は流水で流した。これは、まるで滝行のようだった。汚れはお湯のほうが落ちるだろうと考え、今度はお湯の滝行。これは異常に嫌がった。だからすぐやめた。

かれこれ15分くらいはコガネムシを洗っただろうか。さすがに脚をバタつかせて苦しむ様子はなくなった。行水のほうが苦しかったのだろうか。でも脚が痙攣している。数秒間隔で右後ろ脚の先がピクピクしている。これは長くないか、少しくらい生きても障害が残るだろうと覚悟した。そして、このコガネムシはワタシが責任を持って飼おうと決めた。

深めのタッパー容器に新聞紙を敷き、割り箸を斜めに立て掛け虫かごにする。「コガネムシ 餌」で検索。するとバナナやリンゴが好きだとのこと。ちょうどバナナがあったので、切って容器の中に置く。しばらく様子を見ているとコガネムシがバナナを食べ始めた。こんな美味いものは生まれて初めてだとでも言わんばかりに夢中になってかぶり付いている。でも脚は痙攣している。

翌日見ると、バナナを結構食べていた。フンもある。そして、後ろ足の痙攣が止まった!奇跡だ。一時は再起不能だと思ったが、改善しつつある。なんという生命力。 

コガネムシ

割り箸を登ってきたコガネムシ

敷いてある新聞を替え、古いバナナを捨て新鮮なものにする。あいからわず豪快な食べっぷり。まあ、バナナなど自然界ではそうそう有りつけないだろうから、よほど美味かったんだろう。

右後ろ脚は痙攣は止まったが、まだ他の脚に比べ動きが覚束ないように見える。

夜、蓋を開け様子を見ていると羽根をバタバタとやって飛ぼうとした。逃げられても困るので蓋をすぐに閉じた。たまに様子を見ると、容器と蓋のあいだ辺りをウロウロしている。もしかして自然に帰りたいのかな。そんな印象を受けた。最後まで飼うつもりだったが、元気になれば自然に帰せるかもしれない。もう少しリハビリしながら様子を見よう。 

コガネムシ

記事を上げる直前。寝ている模様